「先日、愛犬にリードをつけて公園を散歩していたら、犬を放し飼いにして散歩している人がいました。そしてその犬がたまたま私の愛犬のところに来て喧嘩になり、相手の犬にケガを負わせてしまいました。遠くでその様子を見ていた放し飼いの飼い主が私のところに来て、犬を放し飼いにした事に対しては謝りもせず、治療費を払えと言ってきました。公園内では放し飼いは禁止ということも注意書に書かれているのですが、この場合私が治療費を支払わなければならないのでしょうか?また、もし払う場合は、全額になるのでしょうか?」
ペットが他人のペットに怪我をさせてしまった場合、怪我をさせたペットの飼主は、ペットの治療費等の損害を賠償する義務を負います(民法718条第1項)。
しかし、被害を受けた者が、自らの行為によって、その被害を招いたといえる場合は、加害者の責任が否定される場合があります(自招行為の抗弁)。
裁判例では、通行人が、ペットが食事中で刺激を受けやすい状態にあることを知りながら、敢えて、食事を妨害する目的あるいは、ペットの頭をたたくなどの目的で腕を差し出したところ、ペットがその通行人に咬みついて怪我をさせたという事案について、通行人による損害賠償請求を棄却しています(大阪地方裁判所昭和46年9月13日判決)。
従って、今回のケースでも、放し飼いが禁止されている注意書がある公園内において、放し飼いをして被害を受けたのですから、自招行為の抗弁により、怪我をさせたペットの飼主の責任が否定される可能性もあります。
また、仮に自招行為の抗弁が認められないとしても、民法では、損害の公平な負担の趣旨から、被害者に落ち度がある場合は、その割合に応じて、賠償額が減額されることになります(過失相殺・民法722条第2項)。今回の件では、被害を受けた飼主に落ち度があることは明らかですので、怪我をさせたペットの飼主が治療費の全額を負担するということはありません。