こんにちは。アニマル医療センター 桃ペットクリニックの院長の加藤です。最近、新しく仔犬を飼い出す人が増えたような感じがします。今はただかわいいだけでしょうが、あと6~7年もすればすっかり中年になり病気もチラホラ発生しだし、すぐ老犬になってしまいます。健康を保つのは日々の積み重ねですので、良い品質の物を食べさせて、ストレスの無い楽しい生活をさせてあげて下さい。良い獣医を見つけて普段から健康管理をしてもらうのも賢い方法です。簡単に治る小さな異常も、放っておけば重大な病気に発展する事が多々あります。今回は犬の心臓病について教えて欲しいとのリクエストがありましたので、心臓病の中でも特に多い僧帽弁閉鎖不全症を中心にお話します。
【犬の心臓病とは?】
犬の心臓病も人間の心臓病のように色々な種類が有ります。三尖弁閉鎖不全症・拡張型心筋症・肥大型心筋症・心室中隔欠損症等々・・・。昔はフィラリア感染による心不全もよくありましたが、フィラリア予防がかなり浸透してきている現在では、ほとんど見られなくなりました。また、生まれつき心臓に異常がある先天性の心臓病もペットショップの店頭に並ぶ前に処分されているのか、あまり診察で遭遇しません。現実的に日常の診療で圧倒的に多いのが僧帽弁閉鎖不全症です。僧帽弁閉鎖不全症とは心臓の中にある僧帽弁という弁がうまく閉じなくなり、血液を体に送る事が不十分になってしまう病気です。血液が十分送られないと酸欠のような状態になり疲れやすくなったり、肺に水が溜まったりして咳が出るようになります。基本的に一度心臓病になると治る事はなく、いかに進行を遅らせるかがポイントになります。
【心臓病の原因・症状】
心臓病全体の原因は第一に老化です。犬の場合、心臓は各臓器の中でも年を取るとかなりの高確率で病気になります。定期的な健康診断で早期発見すれば、薬や心臓病用のフードで進行を遅らせる事が出来ます。
僧帽弁閉鎖不全症の原因としては歯石があります。歯石の菌が僧帽弁に付着して動きを悪くしてしまいます(歯石はバイ菌の塊なので、心臓以外にも各臓器に悪影響を及ぼします)。歯磨きや歯石を除去するのは心臓病の予防に非常に効果的ですので定期的に行うと良いですよ。その他には塩分の多い食事やおやつ、肥満、過度な運動等です。これらは全て飼い主の管理で防ぐ事が出来るので、注意してあげてください。特に、肥満は関節疾患やその他の病気も引き起こします。空腹を与えるようなダイエットはかわいそうなので避けて、カロリーの低いフードを与える等ストレスの無いように工夫してあげましょう。
症状は病状の程度にもよりますが、基本的に咳です。少しの運動で咳が出たりしたら要注意です。ひどくなると酸欠でフラフラしたり失神したりする事もあります。散歩を嫌がったり、疲れやすくなったりした場合も心臓病の可能性があります。
【心臓病の診断方法・治療方法】
心臓病の診断方法は、まずは昔ながらの聴診です。一見健康なペットでもワクチン接種やフィラリア予防時の診察で聴診をした際に心雑音を発見する事も多々あります。経験のある獣医なら聴診と問診でほぼ100%心臓病を発見できます。さらに病気の状態をより正確に把握するために、心電図やレントゲン等で精密検査を行います。心電図やレントゲン等でデータを残しておく事は、病気の進行具合を客観的に判断するのに非常に有効です。
治療方法は基本的には薬と療法食です。薬について簡単に説明すると3種類の薬を使用します。①心臓に作用して不整脈を抑えたり拍動を強くする薬 ②血管を広げて血液の流れを良くする薬 ③体内の余分な水分を尿に出す薬です。どの薬を使用するかは病状の程度や体の状態によりますが、1種類の事もありますし何種類かを組み合わせる事もあります。療法食も状態よっては使用します。療法食は塩分を抑えてあるので、体内の水分のコントロールが出来ます。その他は安静にする事も重要で、運動や興奮は心臓に負担を与えるので避けましょう。
全体的なまとめ
心臓病は中年~老齢犬でかなりの高確立で発症しますが、適正な治療をすれば長期間日常生活を問題なく送る事が可能です。投薬で症状が治まると一見治ったかのように見えるので投薬を止める飼い主もいますが、薬を止めればまた症状が出ます。辛そうに咳をしていても治療をしてもらえない犬もいます。生物は必ず病気になりますし、老化するのは生まれた時から決まっている事です。生まれた者は必ず死ぬという事は、この世での数少ない絶対な事の一つです。今は健康そうに見えるペット達もいつかは病気になり、ヨボヨボになり、寝たきりになる日が来るかもしれません。ペット達が人間のように長生きしたいと思っているかは分かりませんが、咳をしたり呼吸が苦しいのはきっと嫌ではないでしょうか?飼い主のせめてもの義務として、ペットの痛みや苦しみを無くす努力はして欲しいものです。